2018/06/26
先日、神戸市北区にあるマナ助産院を訪問させていただきました(マナ助産院のホームページはこちらです→ http://www.mana-mh.com/ )。この度、当事務所は、マナ助産院の顧問法律事務所となりました。今後、私共がさまざまなお手伝いをすることができればと思います。
院長の永原郁子先生は、本年の9月から、「小さないのちのドア」をスタートさせます。簡単にご説明させていただきましょう。
熊本の慈恵病院が設置している「こうのとりのゆりかご」は、日本で唯一の、諸事情のために育てることのできない新生児を親が匿名で特別養子縁組をするための施設であり、「赤ちゃんポスト」という呼び方で耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。永原先生は、かねてからこの赤ちゃんポストの新たな設置を目指しておりましたところ、認可の要件などの問題もあり、この度、「ポスト」ではなく、面談型の「ドア」という形でこの取り組みをスタートさせるご予定です(尚、「ポスト」という呼称は適切ではないとの見解があり、私もそう思いますが、どうやら世間では定着してしまっている感もあります。ここでは、以下「ゆりかご」と呼ばせていただきます。)。
さて、この「ゆりかご」に関しては、子の遺棄を助長させるのではないかという倫理的な観点や、子の「出自を知る権利」を確保すべきであるという人権の観点からはもちろん、熊本県外からの利用者が多いということから、孤立出産の後、慈恵病院に辿り着くまでの間の母子の生命身体の危険性などなどといった観点からも、多種多様な意見があります。各人の道徳観、人生観、宗教観の相違により活発な議論がなされて然るべきと考えます。
私は、上に指摘されている問題点は、極めて重要で早期に抜本的な対策を要する事項であると考えますが、しかし実務運用の面からするとあくまでも副次的・派生的な論点に過ぎず、制度の運用自体をストップさせる障害とはなりえないし、なってはならないと考えます。すなわち、国が「ゆりかご」に積極的な関与を示さない現況下において、ただ『赤ちゃんの命を救う』という至ってシンプルな目的を達成するために、民間の団体がこれを運営して、実際に最後のセーフティーネットとして有効に機能しているという事実は間違いがありません。だとすると、かかる目的の前では、子の知る権利の要請に関しては自ずと後退せざるをえませんし、母子の生命身体の危険に関しては、全国に同様の施設を増設すべきとの方向で議論が展開されることが筋であろうと考えます。孤立出産の危険性は別途啓蒙していくことが必要でしょう。また、「ゆりかご」の存在が遺棄を助長させているという意見に関してはエビデンスがありませんし、倫理面の問題に関しては、一民間団体が責任を負えるような問題ではありません。検証結果によると、預け入れの理由に関しては、望まない妊娠、生活困窮、未婚、不倫といった事項が挙げられていますが、これら根源的な問題を解消すること自体は「ゆりかご」の制度目的外であり、能力を超えています。「ゆりかご」は、あくまでも緊急避難的に機能する受け皿の役割を果たすのみです。これら諸点を理由に「ゆりかご」の存在自体が否定されるのであれば、それは正に主客転倒であると考えます。
昨年9月に、熊本市の専門部会が第4期検証報告書を公表しました。より幅広い方々がこの問題に関心を持っていただき、建設的な議論がなされることを願います。 現在、永原先生は、クラウドファンディングで「小さないのちのドア」の資金を募られています。すごい時代になったものですね。最近は弁護士もクラウドファンディングで訴訟費用を集めたりすることもあるようで、資金調達の新しい取り組みとして私も注目しております。それはさておき、このブログをご覧の皆様におかれましても、マナ助産院の取り組みに共感された方は、クラウドファンディングでサポートすることも可能ですので、次のサイトを一度ご覧いただければと思います( https://readyfor.jp/projects/inoti-door )。
(弁護士 中川内峰幸)