2022/09/15
9月も半ばとなりましたが、まだまだ酷暑が続いています。幸いなことに、私もスタッフもコロナにはまだかかっておりませんが、依頼者の方々には罹患された方も多く、一刻も早く終息することを願うばかりです。
さて、最近当事務所では、破産よりも個人再生の受任の方が多くなっており、これはなかなか珍しい現象です。それも、住宅特則付のご相談が多いです。これは、従来ならば法的手続をとらずに済んだような、マイホームをお持ちの比較的裕福な方々が、昨今の経済情勢の悪化から、支払に困窮するケースが増えてきているのではないかと推測されます。
その際、住宅資金特別条項をつけることができるか問題となる場合がいくつかありますので、以下、備忘的に記しておきます。詳しくは、お問い合わせください。
① 諸費用ローン
住宅ローンとは別に、いわゆる諸費用ローンを組んでいる事案がしばしばありますが、この諸費用ローンは、金融実務上住宅ローンとは別に扱われていることや、貸出使途が一律ではないことなどに鑑みると、原則として、住宅資金貸付債権には該当しません。ですので、住宅特則をつけることはできません。
しかし、不動産購入時に諸費用ローンを組むことは珍しくないことから、諸費用ローンにつき一律住宅資金貸付債権に該当しないものと扱うことも妥当ではありません。そこで、実務では、諸費用ローンにつき、その使途が住宅の建設や購入に密接にかかわる資金であり、諸費用ローンの総額が住宅ローンの総額に比して僅少であるような場合(大体10分の1ぐらいでしょうか。)には、住宅資金貸付債権として取り扱うことが許容される場合があります。使途の件に関して、登記費用、税金、仲介手数料等ならば密接にかかわる出捐といえますが、引越費用となると、具体的な事情によるでしょう。詳しくはお問い合わせください。
② 買換え
住宅の買換え又は建替え時に、従前居住していた住宅の購入等にかかるローン残額があり、当該残ローンを併せて住宅ローンを借りる場合があります。こういったケースでは、前住宅の残ローンに関しては、再生債務者が現在居住していない前住宅についてのローンであることから、これらを併せて住宅資金貸付債権に該当すると解することは困難です。民事再生法196条1項は、住宅資金貸付債権の要件たる「住宅」を、「再生債務者が所有し、自己の居住の用に供する建物」と規定しているからです。
しかし、①の諸費用ローンの場合と同様、住宅の買換えや建替えは珍しいものではなく、これを一律に住宅資金貸付債権に該当しないものと扱うのも妥当ではありません。特に、建替えの場合は、民事再生法196条3号が「住宅の改良」につき住宅資金貸付債権に当たるとしていることとの均衡からもなおさらです。
そこで、前住宅の残ローンに関しても、新築建物を取得するに至った経緯や残ローンの総額が住宅資金そのものの借入総額に占める割合等の個別的事情により、前住宅の残ローンを含めた全体の貸付債権につき、住宅資金貸付債権として取り扱うことが可能な場合もあると考えるべきです。
実際に、当事務所でも、上記観点から詳細な上申書を作成し、各種資料を提出した上で裁判所を説得し、買換えの場合にも住宅特則を付けることに成功した実績があります。ご依頼者は、個人再生ができないとなると破産しかなく、家を売却することによりご家族にも迷惑がかかることをいたく心配しておられましたが、無事に認可決定が出てとても喜んでいただきました。
③ ペアローン
同居する夫婦や親子が、共有する住宅の持分に従い、それぞれ住宅ローンを組み、共有不動産の全部にそれぞれを債務者とする抵当権を設定する場合です。当事務所で取り扱った案件では、親子の場合が多いですね。この場合、たとえば子が単独で個人再生の申立てを行い、住宅資金特別条項を利用しようとしたとしても、民事再生法198条1項但書の「住宅の上に第53条第1項に規定する担保権が存するとき」の要件を形式的に当てはめると、第2順位の抵当権(父の債務を担保するために子の共有持分に対して設定されている抵当権)が存することから、住宅資金特別条項を利用することはできないこととなります。なお、この点は、立法時には予想されていなかった問題であるとの指摘があるようです。
この点、上記198条1項但書の趣旨は、当該担保権が実行されることにより、住宅資金特別条項が無意味なものになってしまうことを回避する点にあります。とすれば、当該担保権の実行が法律上あるいは事実上なされないような場合には、これを認めても問題がないということになります。実務上は、同一家計を営んでいるもの(夫婦)のいずれもが個人再生手続の申立てをし、かつ、いずれもが住宅資金特別条項を定める旨の申述をすることを要件として、住宅資金特別条項の利用を認めるという運用がなされています。
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いずれにせよ、ご相談に来られる際には、不動産の登記簿と、売買契約書、ローン契約書をお持ちください(お手元にあれば、ローン償還予定表と固定資産税評価証明書も。)。ご相談者のケースが、住宅特則を付けられる事案であるか、丁寧に検討させていただきます。
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(2022.9.15 弁護士 中川内 峰幸)