M&A仲介業者に対する訴訟提起

朝日新聞の報道によりますと、茨城県などに拠点を置く法人グループが2021年以降、飲食店や建設業者など約30社を買収し、その後トラブルが相次いでいる事件につき、買収された会社の元社長が、マイナビ子会社のマイナビM&Aに対して、9714万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしたとのことです。

大手のM&A仲介会社においては、日常的に数多くの訴訟を抱えているということを聞いたことがありますが、それらの一つ一つにつき報道がなされることはありません。この度の事件が大きな社会問題となっていることからこその報道でしょう。

たしかに、この度の朝日新聞の報道は、各方面に大きな影響を与えており、従来より問題視されていたが手付かずであった業界の暗部に対し、確実に一石を投じたと言ってよいでしょう。両手取引による利益相反や高額な手数料といった業界の構造的問題を広く明るみに晒すこととなり、これにより、中小企業庁がガイドラインの見直しを開始しました。また、6月10日には、M&A仲介大手の株価が一斉に急落するといった現象も見られました。

さて、報道に見られる請求額の内容ですが、「契約で約束された個人保証の解除もされず、株式譲渡後の資金流出や被告への報酬が損害にあたるとしている」と記載されています。法律構成が気になるところです。原告は元株主だと思われますが、クロージング後に対象会社の資金が外部へ流出したとしても、これは対象会社に発生した損害であると思われるところ、これを元代表者の固有の損害として請求できるのかという点で、その法律構成が興味深いです。報道では、併せて「今年に入り株式譲渡契約を無効にして会社を解散し」とも記載されており、この点が関係するのかもしれませんが、訴状を見ておりませんので状況は一切不明です。

さて、いざM&A仲介業者を訴えるとして、一般には、当該業者が売主(買主)との間で締結するアドバイザリー契約の中には、損害賠償の条項中、「乙(M&A仲介業者)は、本業務の遂行にあたり、甲(売主又は買主)に損害を与えたときは、故意又は重過失がない限り、甲及びその他の者に対して損害賠償を含む一切の責任を負わない」という旨の免責条項が置かれていることがほとんどです。

また、故意又は重過失によって損害賠償責任が発生する場合であっても、損害額の制限を設けることも多いでしょう。通常は、着手金・中間報酬・成功報酬等の名目で受領した金額を上限とすることがよく見られます。さらには、これも同じく免責条項となりますが、「甲(売主又は買主)は、乙(M&A仲介業者)に対し、甲が自己の最終的な判断及び責任に基づいて、対象企業の選定及び本件提携(株式譲渡等の実行のことです。)を行うこと並びに乙が本件提携に関して一切の責任を負わないことを確約する。」といった内容の条項が置かれることもあります(ただし、効果は消極的に解されるでしょう。)。

そして、そもそもM&A仲介業者が負う善管注意義務とはどの程度のものが要求されるのか、という点も問題となります。これは、当該アドバイザリー契約においてM&A仲介業者が負担する業務の内容・範囲と密接に関連する点であると考えられます。

いずれにせよ、M&A仲介の中には、成約を急ぐばかりか杜撰な業務を行い、また潜在的なリピーターである買主側の利益偏重となるような業者が散見され、これに起因して、後々トラブルとなることが珍しくありません。ですので、M&A仲介の対応にご不満をお持ちの方は、少なくないのです。

「M&A仲介業者の業務に問題があるのではないか」「M&A仲介業者を訴えられないだろうか」とお悩みの方は、M&Aトラブル相談センター(シャローム綜合法律事務所)までお問い合わせください。詳しくは、下のバナーをクリックください。

(弁護士 中川内 峰幸)