2024/07/02
1 はじめに
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効となります(労働契約法16条)。つまり、会社は、簡単に労働者を解雇できるわけではなく、不当解雇である可能性も考えられます。
ただし、解雇された後の対応次第では、不当解雇を主張することが難しくなることもあります。そこで、本コラムでは、解雇された場合(されそうな場合)に気を付けるべきポイントについてご説明します。
2 解雇理由証明書を取得する
⑴ 解雇理由証明書とは?
労働基準法22条1項では、
「労働者が、・・・退職の事由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。」
と規定しています。
つまり、会社は、どのような理由で解雇をしたのかを書面で明らかにする義務があります。この書面を解雇理由証明書といいます。
解雇理由証明書は、解雇後だけでなく、解雇予告された日から退職日までの間にも請求することができます(労基法22条2項)。
⑵ なぜ解雇理由証明書が必要なのか?
・会社が解雇を通知したことを明らかにする
会社が口頭で解雇を伝えていた事案では、弁護士が介入すると、「解雇をしていない(労働者が勝手に休んでいる)」「合意解約である」などの反論をしてくることがあります。したがって、会社が解雇を通知したことを明らかにする必要があります。
・解雇理由を明らかにする
解雇事案では、会社が主張する解雇理由が違法であるとの主張をします。したがって、不当解雇であるかを検討するための前提として、会社が主張する解雇理由を明らかにする必要があります。
⑶ 解雇理由証明書の交付を求めるタイミング
弁護士に相談する前に解雇理由証明書を取得することをお勧めしています。
労働者本人が解雇理由証明書を請求した場合、会社は、無警戒であるためか、適当に作成した解雇理由証明書を労働者に交付するケースが多く見受けられます。たとえば、「成績不良」など抽象的な理由しか記載されていないケースや、事実無根の理由(無断欠勤など)が記載されているケースもありました。このような場合、具体的な解雇理由が示されていないこと、解雇理由に該当する事実が存在しないことなどを主張することで、不当解雇が認められる可能性があります。
一方で、弁護士が労働者の代理人として解雇理由証明書を請求した場合、多くの会社では、顧問弁護士などに相談し、解雇が適法となるような理由を練り上げて主張してくる可能性があります。
そのため、まずは労働者本人から解雇理由証明書を請求することをお勧めしています。
3 就労意思を伝える
⑴ 合意解約の主張をさせないため
不当解雇の事案では、会社側から、「労働者も雇用関係を終了させることに合意している」、つまり合意解約が成立しているから解雇ではないと主張される可能性があります。そのため、解雇を通知された場合、労働者は、①解雇が無効であること、②会社で就労する意思があることを会社に伝えることで、合意解約の主張を阻む必要があります。
⑵ 賃金請求(バックペイ)
労働者は、会社に対し、不当解雇されたため仕事ができなかった期間の賃金の支払い(バックペイ)を請求することができます。ただし、バックペイを請求するためには、労働者が、引き続き会社で就労する意思があることが必要となります。
4 退職を前提とした行動をとらない
⑴ 退職金、解雇予告手当を請求しない
労働者自身が会社に対して退職金や解雇予告手当を請求することは、解雇無効を主張することと矛盾した行動と評価される可能性があります。この場合、合意解約が成立しているとの主張がされたり、バックペイが請求できなくなったりするリスクがありますので、注意が必要です。
→ もし、請求してしまっている場合
速やかに、会社に対して解雇を争う意思を明確にするなどの対応が必要です。さらに、状況を詳しく検討する必要がありますので、速やかに弁護士にご相談されることをお勧めします。
→ もし、会社が一方的に退職金を口座に振込んだ場合
退職金や解雇予告手当として取り扱うことはできないこと、解雇後に発生する賃金(バックペイ)として充当することを会社に伝える必要があります。
⑵ 書類にサインしない
会社から、「退職合意書」や退職手続きに関する書類にサインするよう求められる可能性があります。しかし、会社が求める書類にはサインするべきではありません。サインしてしまうと、合意解約が成立しているとして不当解雇の主張が難しくなる可能性があります。
会社が強引にサインを求めてきたとしても、その場ではサインをせず、一旦持ち帰って弁護士にご相談いただくことをお勧めします。
5 おわりに
不当解雇事案では、専門的な知識が必要となり、適切な対応が求められます。 お困りの方は、お気軽に弁護士にご相談ください。
(弁護士 山本 祥大)