2024/08/20
1 はじめに
能力不足により会社から解雇された場合、これは不当解雇となるのでしょうか?
結論としては、ケースバイケースということになりますが、能力不足を理由とした解雇は簡単に認められるわけではありません。
2 解雇権濫用法理
会社は従業員を自由に解雇することはできません。
労働契約法16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。
要するに、解雇が適法となるには、①客観的合理性、②社会的相当性の要件を満たす必要があります。
客観的合理性では、解雇を正当化するような事情があるのかが問題となります。能力不足の場合には、具体的にどのような仕事のミスがあったのか、業務成績がどの程度であったかなどが問題となります。
社会的相当性は、解雇という手段を選択することが妥当であるか(労働者にとって過酷すぎないか)が問題となります。解雇は、最終手段であって、従業員に対する教育指導や能力に見合った部署へ移動させるなど、解雇回避の措置を尽くすことが必要とされています。
3 能力不足を理由とした解雇
⑴ 会社は能力不足という漠然とした理由だけで解雇をすることはできませんから、能力不足の具体的な内容が問題となります。会社が能力不足に関する具体的な内容を明らかにできない場合には不当解雇となる可能性が高いです。
仮に、一定の能力不足があったとしても、解雇しなければならないほどの不良ではないことを主張することになります。
⑵ さらに、会社は解雇回避の措置を尽くす必要があります。したがって、従業員に対する教育指導が実施されていない、配置転換などが検討されていない場合には社会的相当性の要件を満たさず、不当解雇となる可能性があります。
4 裁判例
ここで、能力不足を理由とした解雇の有効性が争われた裁判例をご紹介します。
「長期雇用システム下で定年まで勤務を続けていくことを前提として長期にわたり勤 続してきた正規従業員を勤務成績・勤務態度の不良を理由として解雇する場合は、労働 者に不利益が大きいこと、それまで長期間勤務を継続してきたという実績に照らして、 それが単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害を生じる恐れがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていることを要し、かつ、その他、是正のため注意し反省を促したにもかかわらず、改善されないなど今後の改善の見込みもないこと、使用者の不当な人事により労働者の反発を招いたなどの労働者に宥恕すべき事情がないこと、配転や降格ができない企業事情があることなども考慮して濫用の有無を判断すべきである。」(東京地決平13.8.10労判820号74頁)
つまり、勤続年数が長い場合には、能力不足を理由とした解雇は相当厳しい要件が課されているものと考えられます。
5 さいごに
仕事でミスがあった場合や業務成績が良くなかった場合でも、不当解雇と判断される可能性はあります。解雇でお悩みの方は、シャローム綜合法律事務所にご相談ください。
(弁護士 山本祥大)