記章あれこれ

神戸地裁でもこの9月から所持品検査が始まりました。空港の保安検査場のように、金属探知機を通り、鞄を開けて係員に中の荷物を見せるといった検査が実施されております。事件や傍聴で裁判所に行かれる場合には、時間帯によっては混むこともありますので、余裕をもって予定よりも少し早めに行かれることをお勧めします。

この所持品検査、東京では以前からありましたが、大阪で本年の1月から導入され、この度、神戸地裁でも実施される運びとなりました。裁判所内での切りつけ事件等物騒なご時世ですので、やむを得ないことと思います。事務員も、身分証を携帯しなければなりませんし、裁判官も例外ではなく、顔パスはできないと聞きました。

ところで、この所持品検査ですが、我々弁護士は、係員に記章(弁護士バッチのことです。)を見せるだけでフリーパスです。偽造品だったらどうするのだろうとも思うのですが、警察の留置場でも、身分確認はこの記章を見せるだけでOKです。記章をまじまじと検査するのも失礼に当たると思うのか、本当にチラッと見せたらおしまいです。

さて、記章はこのように裁判所や留置場へ行くときには常に携帯しておかなければ大変なことになります。裁判所ならば、金属探知機の列に並ぶだけでよいのですが、留置場の場合は、被疑者と接見ができなかったとなると大ごとです。そして、冬場はスーツのジャケットの襟につけておけばよいのですが、冬以外のシーズンではジャケットがありませんので、他の方法で保管して持ち歩かねばなりません。どのように持ち歩くのか。その扱いは弁護士によって様々なようです。

私は、普段から財布の小銭入れの中に、小銭と一緒に入れております。お世話になって尊敬する先生がそのようにされていました。

同期には、桐箱(最初に記章をもらう際にこれに入れて配布されます。中には紫色の布が敷かれており、蓋にはテプラのようなもので登録番号が印字されたシールが貼ってあります。)に入れて大切に持ち歩いている者もいます。

超ベテランの弁護士の方には、真夏でもきちんとジャケットを着て(更にはネクタイもしめて)記章をつけている方もいます。すごいですね。これはまねできません。なお、関連して申し上げますと、ジャケットに記章をつける際も、前後を裏返してつけている方も結構見られます。裁判所外で弁護士だと知られてトラブルに巻き込まれること嫌うのでしょう。

また、冬場でも普段ジャケットにつけない方も多いですね。統計があるのか知りませんが、結構な割合で(特に若手の弁護士は)つけていないのではないでしょうか。日弁連の会則では、職務を行う場合は「帯用」しなければならないと規定されているようです(「帯用」?)。私の場合は、ボス弁に「普段からつけておいた方がいいですよ」と過去に言われたので、なるべくつけるようにはしています。

ところで、この記章は紛失するとなかなか面倒で、弁護士会に紛失届を提出し、再交付の申請をしなければなりません。もちろん手数料が必要となります。また、恥ずかしいことに、紛失した旨が氏名と併せて官報に掲載されてしまいます。官報など誰も見ていないといえばそうなのですが、あまり気持ちのよいものではありません。これが破産者の方は2回も掲載されますので、その気持ちが少しは想像できるような気がします(ところで、この官報掲載費用はどこが負担しているんでしょうか? 上記手数料に含まれているのでしょうか?)。

しかし、実際に紛失する方は結構おりまして、その場合は、再発行された記章の裏に「再1」と刻印されます。もちろん、更にもう一度紛失した場合はこれが「再2」といった具合にランクアップしていきます。

そして、再発行の手続きを行うと、当然新品の記章が渡されるわけですが、ベテランの弁護士がこの金ピカの記章をつけていると、同業者からは「あー、無くしたんだな^^」と思われますし、依頼者には「どうしたんですか?」と言われて、いちいち説明が面倒です。

そこで、ゴシゴシと布で擦ったりして金メッキを剥がし、その下の銀面を表に出そうとするわけですが、自然な感じでうまく加工するのは至難の業です。ジーンズのようにユーズド加工する業者がいればいいのですが、そこまでの需要はありませんので、やはりDIYが必要となります。

私の知り合いの弁護士は、もう故人ですが、自宅のガスコンロであぶって経年劣化を人工的に作出しようと試みておりました。おそらく、「金は可燃性が高い」という発想だったのでしょう。 結果…たしかに金メッキは見事に剥げたのですが、艶なしの鈍い、何とも“すすけた”色になってしまい、またオイルのような跡もついてしまい、やはり自然な感じの風合いにはなりませんでした。あれはやってしまった後に後悔したのでしょうか。。

かと思うと、これを機に18金の記章(というものがあるのです。)にしようという方もいて、いわく、「これなら落としたらもったいないと思って注意するので二度と無くさないだろう」ということです。色々な考えがあるものです。

私は、無くさないようにして、小銭入れの中で日々記章が硬貨とこすれて自然に育つのを楽しむとします。

(弁護士 中川内峰幸)