2018/11/06
先日、私が後見人となっている方の遺言作成事件が無事終了しました。
たかが遺言作成で大層なと思われるかもしれませんが、通常の場合と異なり、成年被後見人が遺言を作成する際には、なかなかに高いハードルがあるのです。民法973条では、以下の要件が定められています。
① 成年被後見人の事理弁識能力が一時回復したこと
② 医師2名以上の立会い
③ 遺言に立ち会った医師が、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、署名押印をすること
すなわち、成年被後見人であったとしても、その判断能力が、遺言ができる程度に回復していれば、医師2名の立会いの下で遺言を作成することができます。
この方の場合、法定後見の申立ての際に、後見か補佐かの選択に迷ったほどでしたし、遺言の内容も非常に簡潔なものでしたので、判断能力に関しては問題がありませんでした。ですので、①の要件はクリアしました。
しかし、問題は、②③の医師2名の確保です。ドクターはただでさえ日常の業務に忙殺されている上に、見ず知らずの人間の遺言作成に協力して下さいと言われ、「ハイわかりました」と抵抗なく承諾して下さる方はいないでしょう。この方の場合も、医師2名の確保には大変苦労させられました。
最初は、入院先のドクターにお願いして、その方と、その病院の他のドクターを用意していただきました。が、本人確認の書類等をお願いしているうちに面倒に思われたのか、最終的にはキャンセルされてしまいました。
仕方がないので、他のドクターを探すことになりました。そこで、ご本人がいつも外来で通われている病院のドクターにお願いしたところ、当然ながら、当初いくらか懸念事項を持たれたようですが、丁寧にご説明した結果、引き受けていただけることになりました。しかし、もう1名のドクターがみつかりません。交通事故等で単に診断書や意見書を書いてもらうのとはわけが違うのですから、医師2名を確保するのは簡単ではありません。最終的には、私の中高時代の同級生にお願いして、遠方からわざわざ来てもらうことになりました。
これで終わりではありませんでした。ご本人、ご本人を車椅子で連れて来て下さる方、公証人、立会人2名(私と事務員さん)、ドクター2名、計7名の日程調整に手こずりました。作成場所は、外来でお世話になっている当該ドクターのお部屋をお借りすることになりました。公証人には出張していただきます。特にドクターのスケジュールは調整が難しく、私の同級生のドクターには、午前の診療を終えてすぐに電車に飛び乗って駆けつけてもらうということになりましたが、その日緊急の外来が入った場合は来ることができないということですので、当日も非常にやきもきしました。公証人に何度も日程変更の連絡を入れ、最終的に公正証書遺言作成の日程が決まったのは、事件に着手してから9か月ほどが経過した頃でした。
当日は、とどこおりなく手続きが進められ、無事遺言を作成することができ、ご本人にはとても喜んでいただきました。
帰りの車の中で、その同級生から「なんや最近弁護士がAIに取って代わられるいうけど、そんなん無理やろ。だってお前、AIが医者探して連絡とってセッティングしてとか、そんなん絶対できへんやろ。」と言われました。なるほどと思いました。確かに、それはそうですね。
(弁護士 中川内峰幸)