2020/06/18
幸いにも怪我がなく、物についてのみ損害が発生する場合の事故を、「物損事故」や「物件事故」などと呼びます。この物損事故の場合は、自賠責保険の補償の対象とはなりませんので、任意保険で対応することが必要となります。この点ご存じない方がいらっしゃいますので、注意が必要です。
さて、物損事故の場合には、車両の修理費用を相手方に請求する(あるいはされる)ことになりますが、まずその前提として、損害が幾らほどになるのかという損害額算定の問題があります。損害の種類としては、以下の三つの状態に分類ができます。
・物理的全損・・・車両が大破してしまい修理がもはや不可能な状態
・経済的全損・・・修理自体は可能ではあるが、修理費用が車両の再調達価格を上回る状態
・分損・・・上記全損に至らない程度の損傷で、修理が可能であり、かつ、修理費用が再調達価格を下回る状態
(※ 再調達価格とは、通常、事故当時の車両の時価額及び買替諸費用の合計額をいいます。)
そして、分損の場合は、修理費用を請求することができますが、全損の場合には、修理費用を請求することはできず、事故当時の車両価格及び買替諸費用の合計額しか請求することはできないことになります。
経済的全損の場合、どうしても中古市場での時価額となりますので、金額があまりにも低いといって驚かれるご相談者がいらっしゃいます。たしかに高額になるとしても、修理をすればまだ乗ることのできる愛着のある車両なので、何としても修理費を請求したい! というお気持ちはよくわかります。しかし、残念ながら、経済的全損の場合には修理費を請求することはできません。訴訟をしても同じです。そこで、少しでも請求額を上げるべく、時価額の算定を行うこととなります。
では、時価額はどうやって算定するのでしょうか。よく用いられるのが、有限会社オートガイド社発行の「オートガイド自動車価格月報」です。これには、各メーカーの車種が年式・型式別に掲載されており、中古自動車の標準的な小売価格を調べることができます。表紙が赤いので「レッドブック」と呼ばれています。なお、消費税が含まれていない点に注意が必要です。レッドブック以外にも、中古車専門誌や中古車販売サイトによる情報を算定根拠として主張することが考えられます。
さて、双方の損害額が出揃い、この点につき合意ができたとしても、過失割合等で話がまとまらない場合もあります。しかし金額からして訴訟をするとなると持ち出しとなってしまう場合などには、ぜひ車両保険の利用も検討してみてください。
車両保険は、事故によって損害が生じた車両の所有者等を被保険者とする保険で、当該被保険者の過失割合に関わらず、被保険者の車両損害に相当する金額が保険金として支払われます。自己の過失が大きい場合でも使用できます。
ところが、ここで気をつけなければならないのが「等級ダウン」です。すなわち、車両保険を使用した場合、等級がダウンすることによって、割引率が低下し、次年度以降の保険料が増加することがあります。契約内容にもよりますが、場合によっては、事故後数年間で実に数十万円の保険料負担の増加となることもあります。ですので、まずは保険会社にどの程度保険料がアップするのかにつき問い合わせる必要があるでしょう。
さて、保険会社に確認してみた結果、やはり結構な金額の保険料が増加するとなったとしても、まだ諦めるのは早計です。車両保険を契約する場合、車両時価額に相当する価額をあらかじめ保険会社との間で協定しておくことが一般的であり、この協定価額が、実際に事故を起こした時点における時価額を相当に上回ることがあります。
したがいまして、上記協定額が高額である場合には、自身の車両保険を使用して、たとえ今後の保険料が増額するとしてその負担分を差引いたとしても、実際に受領する金額は、相手方へ請求した場合よりも高額になる場合もあります。ですので、アップする保険料の金額を確認する際に、併せて、協定価額についても確認してみてください。もしかすると、車両保険を使った方が有利なケースであるかもしれません。